写真は英語ではフォトグラフィー、イタリア語でもフォトグラフィア、フォトはギリシア語で「光」を意味し、つまり写真は「光の絵」ということになります。光があればまた影ができる。写真は光と影の芸術とも言えるでしょう。しかし、この写真は影だけで構成してみました。トスカーナのアグリトゥリズモで朝起きてきたら、外のテーブルに朝日が当たり、面白い影を見せていました。
そこで部屋に戻って、ワイングラスとボトルをテーブルに置いてみたのです。仕掛けは極めて単純ですが、なかなか面白い「絵」ができたと思っています。影だけをモチーフに構成したのがヴェネツィアの橋の写真です。これも夜の散歩をしていて発見したのですが、イタリアは建物などのライトアップがとても魅力的なので、こうした影もまたおもしろいテーマになります。その反対に光の当たり方がキーポイントになって撮れた写真が赤ワインを入れたグラスです。これもまったくシンプルな方法で、グラスの真上から強めのランプの光が落ちて、赤ワインを透明に光らせています。コンパクト・デジカメのレンズをグラスの中に入れるようにして撮ったのがこの写真で、まるで抽象絵画のようになりました。皆さんも試してみて下さい。

イタリアの画家、キリコは強烈なイタリアの太陽が作る影を巧みに描き独特の世界を表現しましたが、太陽の国イタリアならではの光と影の織り成すシーンは実に日常的な世界です。イタリア人の多くはそのことに慣れっこになっているようですが、ある日本贔屓の写真ディレクターが、僕の写真には東洋的な影のとらえかたを感じると評したことがあります。そう言われてみればそうかもしれません。浮世絵などでも影の表現を見事に応用したものがあります。谷崎潤一郎も「陰翳礼賛」という名著を残しています。水の都、ヴェネツィアの冬の朝はまさに光と影が織り成すドラマチックな劇場空間です。

