歴史とみどころ ~ローマの噴水 その2~

 ローマという都市は不思議な力を秘めていると思います。世界の道はローマに通ずと言われたほどですが、たしかにローマを一度でも訪れてみると、その記憶は永遠に生き残り、残像はいつも鮮明です。もちろん、個人個人の体験と印象によって違うのでしょうが、僕にとってのローマはイタリアとの最初の出会いであり、今も兄弟のように付き合っている写真誌の編集長もローマっ子だし、ローマに行くといつでも懐かしい匂いを感じます。それは常に子供の頃の記憶と繋がっていて、当時は東京でもあちこちに井戸水がありました。真夏の太陽の下で真っ黒に日焼けして遊んでいた頃、喉が渇くと必ずその井戸のポンプを押して水を汲み上げ浴びように飲んだものです。ローマの泉からこんこんと湧き出る水を飲むといつもその記憶が蘇るのです。
 ローマの散策で一番多く出会うのは教会と広場、そして広場にはほとんど必ずがあります。あるいは道が分かれるところなどにもあります。僕がローマに滞在するときに必ずや訪れる場所があります。それはピアッツァ・マッテイという小さな広場で、そこには「亀の噴水」と呼ばれる噴水の傑作があります。この噴水が制作されたのは16世紀の後半で、初めの作者は当時の天才的な噴水の設計者であったジャコモ・デッラ・ポルタです。4人の青年が支えている水盤を見ますと、そこに4匹の亀が水盤の中によじ登ろうとしています。この亀はこの噴水が作れてから100年ほど経てから無名の作者が付け加えてものだそうですが、この噴水はこの亀によって「亀の噴水」と呼ばれているのです。
 僕がこの噴水を見に行くときは、この場所にすぐ行くことはありません。その前に、カンポ・デイ・フィオーリに行き、マルチェッロ劇場のあたりを歩き、テベレ川の中洲にあるティベーリナ島からゲットーとシナゴーグのあたりまで来ると、足は自然とこの噴水のあるマッテイ広場に向くのです。そして、その小さくて静かな空間のなかで、噴水の穏やかな水音を聞きながら4匹の亀を見たり、噴水の周囲をゆっくりと回って、自分が立つ位置によって背景の建物との関係が変化する噴水の見え方、さて、今日はどのアングルから撮影しようかなどと思いつつ、しばしの休憩をするわけです。


ローマを訪れて何度目かで、友人たちにエスプレッソが一番美味しいのはエウスタキオというバールだと教えてもらいました。すると、ローマに行くたびに日に2,3度はここでエスプレッソを飲むようになりました。パンテオンを正面に見て右側の道を右手に抜けていくとサンテウスタキオ(Sant'Eustachio)教会があります。歴史はとても古く、初期キリスト教時代からの教会で、中世に守護聖人として聖エウスタキオを選びました。聖エウスタキオはローマ時代の軍人でしたが、狩に出た時に頭部に十字架のある鹿を見て改宗しました。その向かいにカッフェ・エウスタキオがあります。そして、この広場の脇に鹿の頭部と本がデザインされた泉があります。この噴水は20世紀に入ってからのもので、ピエトロ・ロンバルディのデザインです。鹿の頭部の上の両脇には書物が重ねられていますが、この書物は近くにローマ大学の学部があったパラッツォ・サピエンツァがあったので、学問のシンボルとしてデザインされてます。ローマの友人はこの泉の水を飲むと頭が良くなると言っていましたので、僕も飲みましたが、果たして・・・

この泉は古代の演劇の仮面をモチーフに1627年に作られ、”仮面の噴水”と呼ばれています。ローマでも魅力的な通りのひとつと言われているジュリア通りにあります。この通りには現在はフランス大使館が置かれているファルネーゼ家の館があり、この仮面の泉の上にはファルネーゼ家の紋章の”百合の花”が飾られています。ファルネーゼ家は祝いの時にはこの泉からワインを流したそうです。ファルネーゼ館の裏手にカンポ・デ・フィオーリがあり、朝市が賑わいます。この広場にはドイツの物理学者、ファーレンハイトの名前が付いた書店があって、写真や映画、演劇関連の本が充実しています。広場には”カルボナーラ”というレストランやワイン・バーなどもあり、朝から夜まで楽しめます。

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コメント (4)

こずえ:

 私も息子もローマのfontanellaが大好きでした。
見た目の美しさだけでなく、おいしい。夏、いつもお世話になりました。
せっせと水道をひいてくれた古代ローマ人に感謝しつつ。
 それは、観光地だけでなく、いろいろな地域に移り住みましたが、どこにでも
市民のためにありました。(スーパーで水を買わなくてもOKよ。)
 ローマを離れるとき、友人のカメラマンの店で作ったというオリジナルのその年のカレンダーは Acqua di Roma という写真集でした。
地元の人たちにも本当に愛されていますね。

アックアドットしのちゃん:

先週、久々にローマの懐かしい散歩道を歩き回りました。カンポ・デイ・フィオーリ、オレンジの庭園、トラステヴェレ、ゲットー地区で名物のカルチョーフィのフリットとカルボナーラを食べ、カヴゥール通りのワインバーで夜の締めくくり。奥様方数名の小さなツアーでもあったので、僕のペースで坂道の多いローマ歩きはちょっと大変だったみたいだけど、やはり石畳を踏みしめ、坂の上り下りを体験して、体全体でローマを感じて欲しいと思ったからです。観光バスに乗って長めて終わるだけでは、永遠の都の魅力は理解できないでしょう。ローマは女房みたいな都市ですね。

あいうえお:

なぜローマに
たくさんの噴水があるのか
知りたいのですが
なぜだかわかりますか?

あいうえお様、なかなか面白いご質問を頂きました。それは、おそらく日本のあちこちにも温泉がたくさんあるのと似たような理由かと思います。ローマに限らず、イタリア各地の町や村には必ずと言って良いほど噴水がありますが、温泉同様、天然の恵である噴水をローマ人はこよなく愛していました。太陽が燦燦と輝く国では、噴水の冷たい水は命の洗濯に欠かせないものであったからでしょう。同様に、アラブの文化でも水を素材とした様々な人工物が誕生していますね。日本人は人工的な噴水よりも、自然な滝に惹かれ、庭園にも噴水ではなく滝を取り入れていますね。日本にはお水がお酒に変わる養老の滝伝説がありますが、イタリアではワインが湧き出る噴水がある庭園もあります。現在では行われていませんが、ミラノ郊外のライナーテにあるヴィッラ・リッタにあるバッカスの噴水です。

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篠 利幸

1977年初渡欧、画家としてしばらく活動後、イタリアの写真を撮り始める。書籍、雑誌等で写真と文筆の両面で活動、「田園のイタリアへ!アグリトゥリズモの旅」(NTT出版)、「トスカーナの青い空」(東京書籍)など著書多数。 新ブログスタートしました→http://blogs.yahoo.co.jp/fotombra

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