サン・ミニアート風景


6月の旅で特に気に入った町がサン・ミニアートでした。トスカーナにはフィレンツェやシエナのような都市はルネサンス美術の宝庫でもありよく知られていますが、僕はやはり田園に点在する小さな町や村に心惹かれます。サン・ミニアートはピサ県のちょうどピサとフィレンツェの中間にあります。フィレンツェ市内を流れるアルノ川はピサまで続きますが、その南側に広がる平野を見渡す丘の上の町です。
人口は2万5千人程度ですが、エトルスコそして古代ローマの時代から町として存在し、中世には神聖ローマ帝国の皇帝フェデリーコ二世の城砦も建設され、イタリアに進出したドイツの要衝でもありました。また、ルネサンス時代にはコジモ・ディ・メディチの后で、オーストリアから嫁いだマッダレーナが司教座を置くことに助力し、宗教芸術教区美術館にはフィリッポ・リッピやダ・ヴィンチの師匠、ヴェロッキオの彫刻

などがあります。
町の郊外にある小さなワイナリー、Tenuta di Poggioの庭先から眺めるとロッカ・フェデリチャーナ(フェデリコの城砦)が一際高く見え、左手にはサン・ミニアートのドゥオーモとマティルデの塔と呼ばれる大きな鐘楼が見えます。町はこの丘の稜線をなぞるように細長く伸びています。視察取材のこの町に滞在できたのは夕方から翌日の朝まで。夕食もまた郊外に出たので、町そのものを散策できたのはほんの数時間程度ですが、それでも心休まる田園の風景や町の佇まいの撮影を楽しむことができました。トスカーナでは珍しい白トリュフの名産地ということで、ぜひまた旬の季節に訪れたいと思いますが、それはさておき、このサン・ミニアートの撮影スポットを歩いてみましょう。

サン・ミニアートではミラヴァッレ(MIRAVALLE)というホテルに泊りました。ドゥオーモが目の前にあるカステッロ広場に建つホテルで、3つ星ながら白トリュフの料理が自慢のレストランもありなかなか居心地の良いホテルです。特に気に入ったのがこのホテルの部屋や正面玄関のすぐ脇からの展望です。
 その眺望を眺めながら風景写真を撮影しましょう。



1)時刻は夕方、西に傾き始めた太陽にてらされて、空も、大地も、森も、建物もうっすらと赤みを帯びています。農家の焚き火から立ち上る煙が静かな風景に動的な印象を演出しています。空の部分は全体の3分の1で画面を分割します。左下に見える糸杉と建ち並ぶ家並みの中に見える小さな鐘楼もそれぞれ左右からほぼ3分の1に収まり、全体が落ち着いた調和を見せてます。



2)眼下に見える民家の屋根を入れることにより遠近感にメリハリが出てきます。水平、垂直がきちんと保たれるように、カメラをしっかりと構えましょう。


3)民家の屋根の連なりの面白さをもっと画面に取り入れて見ます。軒や屋根の稜線がジグザグにつながり視線を遠景の地平線まで導いています。ポイントとなる手前の煙突や中景にある糸杉がジグザグに移動する視線を誘導しますが、やはり縦割りに3分の1づつ分割された線上に落ち着いています。





 地上から立ち上る焚き火の煙は良いのですが、空にもう少し雲の表情がある天気であればなお良かったと思います。視線を右向けますと、家々の連なりが緩やかな弧を描いて続きます。右端の壁は宿泊しているホテルの壁面です。

こうして同じところから数点の写真を撮ってみましたが、僕が一番気に入ったのは縦の構図にして手前の屋根と組み合わせたものです。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://blog.tabista.jp/cgi-bin/Mt/mt-tb.cgi/1769

コメント (15)

yuki:

同じ場所なのに、こんなにも見え方が違ってくるのですね。
全然、違った場所で撮ったようにも見えます。 糸杉の位置のバランスもいいですね。
「トスカーナの青い空」の糸杉の写真や、ハンターが写っている写真も好きです。
写真を撮るとき、同じ場所でも、目線を変えて撮ってみたいと思います。

歩く眼ですのしのちゃん:

Yukiさん、そうなんです。世の中ちっとも変わらないと思っていると、実は自分が変わっていないだけとか、その逆に、世界は目まぐるしく変化すると感じても実は、本質は変わってないとか。自分の身の置き場所は大切ですね。風景の中に糸杉やポプラがあると、僕は友達のような親近感を覚えます。そして自分の位置と見えない線で立体的な構図も画面に取り入れます。つまり、奥行きをどう作るかということも大事ですね。

鶴見圭祐:

いつも楽しく拝見させて頂いております。
鶴見と申します。以前、2003年12月にイタリア大使公邸で
先生のアグリツーリズモのセミナーに参加し、お会いしたものです。
その後、ご連絡をと思いながらできず、今日こちらにコメントさせて頂いております。
イタリアへの関心は尽きず、その後私もこのような風景が
なぜうまく残っているのか、自分なりに研究し、実はこのたび
本を出版いたしました。すこし専門的かも知れませんが
イタリアの風景保護や環境問題について書いています。
タイトルは 「緑のイタリア史 ~農村部における風景保護・イタリア環境法の息吹」
です。詳細は以下のリンクをご参照ください。
http://shop.ruralnet.or.jp/genre.php?id=0406

イタリアの風景は条文上は、憲法によって守られていることになっており、
イタリアでは法律の力が強いのではないかと思う今日この頃です
突然のお知らせで恐縮ですが、以上よろしくお願いいたします。
鶴見

旅人しのちゃん:

鶴見さん、お久しぶりです。「緑のイタリア史」、イタリア研究会でも日伊学院の松本さんから紹介されていましたので、早速買いましたよ。さすがに学術論文として書かれただけに、綿密な調査でイタリアの環境保護から農業問題にまで言及し、資料としても、また日本の国土保全政策への提言としても貴重な著書ですね。ぜひとも多くの方々に読んで頂きたいです。糸杉や葡萄畑、オリーブの林とレンガ色の農家などが見せる絵画的な風景も、古代ギリシア、ローマ時代からの美的なセンスによって育まれた環境作りの結果ですね。腕の良い料理人は鍋やフライパンをいつもピカピカに磨くように、美味しい農産物を生産する農夫はその畑や環境を美しく保ちます。だらしのない畑からは不味い野菜しか生まれないでしょう。イタリアの全てが100%正しく、良い手本ではありません。反面教師の部分もあります。全てを知る意味でも「緑のイタリア史」僕も推薦します。

鶴見圭祐:

ご返事、心強いコメントを誠に有難うございます。日本にも絵画的な風景が多く残ることを
切に希望しております。今一番気がかりなのは、携帯電話の普及で基地局の鉄塔が
どこの国でも雨後のたけのこのように建ってしまっていることです。イタリアではそういう
景観紛争が既に多く起きているようなので、今後も注視していきたいと思っております。
拙著をご購読頂きまして大変光栄です。重ねて御礼申し上げます。それではまた。

鶴見圭祐:

篠さん、こんばんは。暑い日が続いておりますがお元気ですか。
実は一つお願い事がございます。「日伊文化研究」という冊子をご存知かと思いますが、
そこに新刊紹介というコーナーがあり、そこに投稿したいと考えております。ただ、本の
評価コメントを入れなければならないそうでして、又あいにく8月末の締め切りが迫っております。
つきましては、大変厚かましいお願いなのですが、上記7月11日に篠さんから拙著「緑のイタリア史」に頂いた貴重なコメントを一部拝借・使用させて頂くことは可能でしょうか。ブログ上で恐縮ですが、良いご返事を頂くことができれば誠に幸いです。。何卒宜しくお願い致します。鶴見

旅人しのちゃん:

鶴見さん、Buon Giorno! ご依頼の件、どうぞどうぞご遠慮なくご利用下さい。9月から日伊協会の新講座を九段のイタリア文化会館でスタートする予定です。近々、お会いしましょう。

鶴見圭祐:

篠さん、Buona sera!  早速ご了承頂きまして誠に有難うございます。審査が通るように最善を尽くしたいと思います。9月から新講座をもたれるとのことで、益々のご活躍を祈っております。ところで、会社で買った篠さんのアグリツーリズモの本が行方不明なので、また買ってもらおうと思います。。またぜひお会いしましょう。それではまた。A presto!

イタリア好きしのちゃん:

鶴見さん、では拙著の奥付に自宅の連絡先がありますから、次回から直接僕にご連絡下さい。
9月14日のイタリア研究会の例会は農水省からローマのFAOに赴任していたEndoさんが講師です。僕はイタリアなので出席できませんが、ぜひ聴講してきて下さい。

木山 述史:

「サンミニアート」、この町が紹介されることは殆ど無く、ガイドブックにもありません。そんな中、偶然、篠さんのHPのサンミニアートのページを拝見して、うれしくなりました。

私の知っているイタリアは、トスカーナとベネトぐらいですが、トスカーナ旅行の際に、ルッカに行ったあとサンジミアーノに向かう途中で、たまたまサンミニアートを通り掛りました。
とても魅力的な丘の町で、今日はここに泊まろうと、良さそうなホテルでたずねたら、満室とのことで残念な思いが残っています。たぶん篠さんの泊まったホテルだと思います。
行ったのは1997年の事ですから、あれからもう10年が過ぎてしまいました。

あのとき現地の人に聞いて行ってみて良かったもう一つの小さな丘の町スペロ(アッシジの隣町で、画家の堀綾子さんが一時滞在していたと、あとで聞きました。)も含めて、機会があったら、再訪して泊まりたい、イタリアの田舎町です。

木山様、
サンミニアート、小さな町ながらなかなか奥深い魅力がありますね。近郊のワイナリーで作られる極上のワインやトリュフなどなど。そして、ウンブリアのスペッロ、ここもアッシージに滞在したときには必ず訪れます。近年はお洒落なエノテカも出来たり、もちろん日本画家、堀文子さんが滞在したのはウンブリアの大地震のだいぶ前ですが、ようやくすべての修復も完了しましたので、ぜひまた訪れてください。僕はここから眺める夕日が好きです。

野口司:

はじめまして。
大阪で景観の研究をしている野口と申します。

鶴見圭祐さんの『緑のイタリア史』を拝読しました。
文化史的な観点から、何故欧州の景観は保全と地域育成に結びついていて、日本のそれは貧弱なのかということをテーマにしています。

ある大学のゼミで『唄』と通して見る文化的景観について発表し、鶴見さんの著書の見開きの詩を取り上げましたが、私の翻訳が正鵠を得ていない気がして、ここに書き込んだ次第です。

もしよろしければ、ご教示いただけると幸いです。

野口様、コメントを頂きありがとうございます。日本の景観に対する取り組みが貧弱なのは戦後の急速な経済発展の犠牲ですね。ことに東京オリンピック以降、経済効率優先で列島は改造され、人心も自然や景観を守る意識から遠のきましたから。行政も現在の農水政策を見れば分かるように何も考えてこなかった、目先だけの経済的な変化で恣意的な政策ばかりでしたから、なにもかもガタガタになったわけです。
ところで、鶴見さんの「緑のイタリア史」を見ていますが、その"見開きの詩”が見当たりません。ページは分かりますか?この件、むしろ鶴見さんご本人にお問い合わせ頂いたほうがよろしいかと思います。野口さんの研究内容も興味深いですね。また、ご連絡を下さい。

野口司:

旅人様

連絡が遅くなり、申し訳ございませんでした。
新しい大学院の受け入れ先等で忙殺されておりました。

遅まきながら、明けましておめでとうございます。

私は、90年から約10年間建設コンサルタントに居りましたので、建設行政の欺瞞と矛盾をよく知る者です。
景観よりお金に眼が眩み、農地を用途変換してまで、ラブホテルやなんちゃらホームで建てられた普請が田舎を浸食しつつありますね。

一昨年まで、とある理系の大学院に居ましたが、彼ら教授陣は役人の後ろ盾をするような方々が多数ですから、私のような文化史的アプローチでの景観保全の研究は、あまりおもしろがられませんでした。

はしがきの前の色刷りページの冒頭の左側、
"Ai nostri parenti e a tutti i settori sociali con tutta la nostra stima".
のcon以降、"la"が何を指しているのかよくわからなかったものですから…

鶴見さんとコンタクトの取り方がわからず、ここに書き込んだ次第です。

野口様、お久しぶりです。建設関連、企業・行政そして彼らのアドバイザー的存在になる大学教授らの三つ巴癒着体質は僕も見たり聞いたりしています。まあ、日本に限ったことではないでしょうが、本来、名誉を重んじる政治家や教授、意思、弁護士といった職業の人間に不名誉なことをやっているのが目立ちますね、日本では。
では、とりあえず、ブログ上ではなんですから、私のメルアドに改めて連絡を下さい。
spaziotempo_toshi@nifty.com
です。
お尋ねのイタリア文中の”la ”は次に来るnostra stimaの単なる定冠詞で、人称代名詞とかではないです。

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)


篠 利幸

1977年初渡欧、画家としてしばらく活動後、イタリアの写真を撮り始める。書籍、雑誌等で写真と文筆の両面で活動、「田園のイタリアへ!アグリトゥリズモの旅」(NTT出版)、「トスカーナの青い空」(東京書籍)など著書多数。 新ブログスタートしました→http://blogs.yahoo.co.jp/fotombra

2009年06月

  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30        

アーカイブ

最近のコメント

RSSを取得