
嘘つきはドロボーの始まり、なんて昔からよく言われていますが、人間の心理として、何かまずいことがあると、つい嘘をついてしまう、あるいは誰しもが他人には言えない秘密のひとつやふたつはあるので、そのことに触れられると嘘を言ってオトボケになります。嘘も方便、などという故事があるくらいですから、嘘が常に悪いことではないというのは、たぶんイタリア人でも同じでしょう。アメリカ映画『ローマの休日』で有名になった、サンタ・マリア・イン・コスメディン教会にある「真実の口」、実は古代ローマ時代のマンホールの蓋だったとも言われていますが、中世から、この顔の口に手を入れて、嘘つきならば手を噛み切られるという伝説がありますが、どうやら当時は男女の不貞を確かめるところだったようです。”恋泥棒” などという言葉もあるくらいですから、男も女も嘘で相手を騙して、アバンチュールを楽しむなんていうことは昔からの常套手段ですね。
さて、その”泥棒” ですが、イタリア語では”ラードロ” と言います。イタリア語でもやっぱり”泥”がつくんですね。昔から”イタリアの泥棒、スリ、置き引き、引ったくりの被害にあったエピソードはたくさんあります。日本人のツアーコンダクターの女性が引っ手繰られたバッグにしがみついて泥棒の車に引きずられ命を失ったという悲しい事件や、バカンスから家に帰ったら目ぼしい物のほとんどを盗まれていたという事件もありました。盗むときにドアやタンスまで壊されて、後の修理が大変だからと、バカンスに出るときに封筒に現金を入れて「泥棒様、どうかドアや入り口を壊さないで下さい」と書いておいてバカンスから戻ったら、泥棒の手紙が置いてあって、「親切に有難う。金は頂きました。今度は鍵を壊さないようにバカンスからあなたが戻ったら出直してきます」と書いてあったそうです。
かく言う僕もローマで一度だけスリにあったことがあります。もうだいぶ前の話ですが、ローマのトラステヴェレ駅の近くに住んでいた芸術家の友人がいて、しばしばやっかいになっていました。外出するときにはトラステヴェレ通りを走るバスやトラム(路面電車)を利用するのですが、ある時、バスの中でこれは怪しいなと思うふたり組の若者に挟まれました。右肩に掛けたカメラバッグに腕を回して防御し、目的地はまだ先でしたが危ないと思ったので次の停留所で降りたのですが、その降りる瞬間、手摺を掴んでバッグから手が離れた隙にカメラバッグを覆うカバーをはずしてその内側にあったフィルターのケースを盗まれていました。バスを降りて、スリをやりすごしたなとホッとしたところで掏られたことに気づいたのです。あっぱれ!としか言いようのない盗み技でした。
イタリアに初めて来てから10年以上もたっての初体験。がっかりして友人の家へ帰ると、その友人は、「明日はちょうど日曜日で”泥棒市” があるからそこに行ってみれば、もしかしたら君の盗まれたフィルターケースが売られているかもしれないよ」と言うのです。その”泥棒市”というのは友人の家のすぐ裏手にある”ポルタ・ポルテーゼの市” のことでした。毎週日曜日の朝8時前から露天が開き始め、昼過ぎまでやっています。何度か見に行ったことがありますが、骨董から衣類や履物、日用雑貨などあらゆる物の市が出ていて、見て歩くだけでもなかなか楽しいのですが、いつだったか、ここでも危うくカメラバッグを開けられそうになりました。幸いに後ろを歩いていた家内が気づいて知らせてくれたのですが、盗もうとした男は縞模様の洒落たスーツにネクタイ、紅いマフラーにサングラスをして、黒の帽子とカシミアのコートに身を固めた一見紳士風でした。また、人が行き交う市の真中で見事な手さばきのカード手品の賭博をたくみな会話で人を集めて展開している男もいますが、これを面白がって見ているうちにスリにやられるということも少なくないようです。この市が”泥棒市”とも言われるのは、こうした人ごみでスリを働く輩が多いということもあるのでしょうね。
結局、僕のフィルターケースを見つかりませんでした。きっと、どこかのカメラ店に売ってしまったのでしょう。カメラ店の中古を探せば出てきたかもしれませんね。

冷戦時代の東西の壁が消えた2000年代に入って、イタリアには東欧やロシアなどからたくさんの人たちが流入してきました。アルバニア難民などひところはだいぶ社会問題にもなりましたが、確実にイタリア経済の中に入りビジネスを展開しているのはロシア人でしょうね。それはポルタポルテーゼの市を歩いて見ても分ります。今までには見たことがなかったような、新品のロシア製のカメラを並べている露天もあります。売っている人もなかなかのロシア美人。話し掛けてみましたが、イタリア語はまだおぼつかない感じで、僕がいろいろとカメラのことを聞こうにも会話ができませんでした。ロシア製や特に旧東ドイツ製のカメラやレンズには素晴らしい性能のものが格安で買える場合もあるので、カメラに興味があるひとは一度歩いてみるといいでしょう。

ポルタポルテーゼの市では日用品も豊富に売っています。とにかく安いのが魅力。1ユーロ単位になって割高感は否めませんが、値切りも交渉の腕次第です。パンツを何十枚もまとめ買いしていた太ったお母さんもいました。大家族なんでしょうね。以前は靴を山積みになったところから同じ柄、同じサイズを探しながらなんてところもありましたが、最近はちゃんと箱入りの新品をきちんと並べて売ってます。旅のお土産をこういうところで見つけるのも面白いかも知れませんね。

冷やかしでも見ていて楽しめるのは骨董や職人の手仕事で作られたものですね。この露天は銅版を打って造ったフライパンや鍋、真鍮の鋳物などを並べていますが、お菓子やパンの型とか燭台が多いのはやはりイタリアですね。売っている人たちも商売よりも訪れる人たちとの会話を楽しみに来ているようでした。


コメント (4)
「ローマの休日」が大好きで、ご他聞にもれず、真実の口に手をつっこんだお決まりのポーズで写真を撮りました。ポルタ・ポルテーゼを冷やかしていたとき、「ウネウロ!ウネウロ!」とずーっと叫んでいる呼び込みに人がいて、なんだろ?と思っていたら、「あ!1ユーロ!と言っているんだ!」とふと気づき、それから「ウネウロがずっと耳を離れませんでした。すごい人で、もっとアンティークのお店を見たかったです。お土産を探しにいくんじゃなくて、盗まれた物を探しにいくお買い物って、これぞ本当の「泥棒市」ですね。
投稿者: @M | 2006年09月05日 00:50
日時: 2006年09月05日 00:50
@Mさん、このポルタ・ポルテーゼの近くには盗んだパスポートを売買する地下組織のアジトもあるらしいですよ。マフィアとかナポリのカモッラとはまた別のローマの”伝統的”なヤクザ組織もあるとか。そのボスがペットショップの親父だったり。もう20年も前の話ですが、抗争でそのボスが自分の店の小さな犬の檻に押し込められ滅多刺しにされたとか、恐いお話もありました。「ウネウロ」ねぇ、ヴェネツィアの「ゴンドラ、ゴンドラ」と語尾を上げて呼び込むのに似てますね。
投稿者: 旅人しのちゃん | 2006年09月05日 06:25
日時: 2006年09月05日 06:25
初めまして、こんにちわ!ローマに住んでいた時、いつも散歩がてら行っていたのですが、こんな恐ろしい事もあるとは!!!スリに狙われたことはありますが、実際に被害にあってないので「こんなもんか」と思っていましたが、それが油断なんですね。今度イタリアに行く時は気をつけるようにします。(トラックバック送らせて下さい。よろしくお願いします。)
投稿者: Miccion | 2006年09月22日 22:34
日時: 2006年09月22日 22:34
Miccion様、先週の旅行中に読んだ”L'espresso"誌の表紙のタイトルが”NAPOLI PERDUTA"です。失われたナポリ、凶悪犯罪が急増しています。特に多い月が6月7月ですが、昨年も今年も強盗、ひったくり、スリなどが2万件以上(たった2ヶ月間です)。そして検挙件数は昨年も今年もたいして変わらず600件程度。実は今年の春に8名ほどのマダムたちをお連れしてナポリの駅からサンタ・ルチア港までのんびりと歩いて来たのですが、僕たちはとっても運が良かったみたいです。
しかし、日本の若年層の凶悪、悲惨な犯罪のスタイルはイタリアではまだ少ないですね。ナポリの犯罪の首謀者もシチリアのマフィアのような犯罪組織、カモッラがらみ、コカインなどドラッグ中毒者が増えつづけているのです。G7サミット以降少しはよくなったと思われただけにショック!
ユーロ変換によるインフレも大きな原因でしょう。貧困と富裕層との格差やあいかわらずの失業問題。「ナポリを見て死ね」という故事がブラック・ユーモアに感じます。さて、ローマはいかがでしょうか。行くたびに変化を感じる近年ですが。
投稿者: 旅人しのちゃん | 2006年09月26日 10:09
日時: 2006年09月26日 10:09