カネッリ、人口1万人ほどの小さな町にミシュランのひとつ星レストランがあります。名前はリストランテ“サン・マルコ”。ヴェネツィア好きな僕は思わず、水の都のサン・マルコを思い描いてしまいましたが、聖マルコという聖人はなにもヴェネツィアだけのものではなく、ピサ県にも同名のホテルがありました。このリストランテはマリウッチャさんという女性シェフと彼女のご主人、ピエール・カルロ・フェッレッロさんが経営しています。ピエール・カルロさんはソムリエであり、また“Trifolau”というトリュフ組合の会長でもあるそうです。
カネッリ郊外にワイナリーとアグリトゥリズモ“ルペストル”をやっている友人、ジョルジョの紹介でサン・マルコで昼食を頂くことになりましたが、ちょうどその夜は大きなパーティがあって100人分の料理を仕込まなくてはならないとかで厨房は朝から大忙しの状況でした。にもかかわらず、ジョルジョの顔もあったのでしょうが、マリウッチャさんも快く僕のために昼食を作ってくれました。

(左)格別ゴージャスという雰囲気ではないが、テーブルとテーブルの感覚が広く、ゆったりと寛げる空間です。(右)昼食ながら窓も多いので自然の光がほどよくテーブルを明るくします。
料理は昼でしたので前菜を3種類にパスタとデザートにして頂きました。ワインもスプマンテをスタートに赤ワインはバルベーラ、そしてデザートに合わせたモスカートのパッシートをそれぞれ1杯づつ頂きました。メニューはお任せで、最初に出てきたのは赤と黄色のピーマンの中にツナのペーストを詰めたファルシとつけ合わせにはチコリ(アンディーブ)やズッキーニ、ミニ・トマトなどが飾られてます。ピーマンのファルシはイタリアではしばしば食べますが、ここの味はとてもあっさりとして上品なものでした。
Peperone al forno farcito alla Piemontese. ピーマンのファルシと生野菜添え。
次に出てきたのは肉料理ですが、これもメニューではアンティパストに入る軽めのもので、子牛のローストビーフにトンナータというペーストを合わせたものです。トンナータは通常はマグロを使いますが、この料理にはエイを使っています。これもまたあっさりとした味わいで、なるほどこれなら前菜として食べるのも納得です。
Tradizionale Vitello Tonnato dirazza"Fassona"Piemontese 子牛のロースト・ビーフ、エイのペースト添え。
3皿目に出てきたのはパスタで、ピエモンテ名物のタイヤリンです。僕はパスタの中でもこのタイヤリンが一番好きで、日本のレストランではあまりメニューにないのが残念です。ソーメンくらいに細く繊細な平打ちのパスタで卵がたっぷりと入っているのでコシはしっかりとしています。それに黒トリュフをバターと一緒にたっぷりと合えています。9月半ばでまだ白トリュフの時期でなかったのがちょっと残念でしたが、このパスタには思わずにんまりとしました。
Taglierini all'uvo al burro con tartufo nero d'Alba. 黒トリュフのタリオリーニ、ピエモンテではタイヤリンと言う。
僕がどれも美味しくて満足しているとカメリエーレの青年に伝えると、彼がもう一皿、キノコの料理を作れるけれどもお腹にはまだ余裕はありますか、と聞くので当然、もちろん!と応えました。すると出てきたのが採れたてのポルチーニのソテーにパンチェッタ(ベーコン)とハーブをオーブンでカリッと焼いたものを添えた一皿です。けっこうボリュームのある一皿でしたが、ポルチーニがこんなにも甘味があるものかとビックリしました。ちょうど、店に来る前の市場で採りたてポルチーニの香りをたっぷりと嗅いできたばかりだったので、大満足です。
Funghi porcini trifolati con pancetta croccante ed erbe aromatiche ポルチーニのソテー、パンチェッタと香草をカリッと焼いて添えました
デザートにはスフォルマティーノと言って、カッファレル(Caffarel)のジャンドゥイヤのチョコレートを入れて型焼きしたケーキです。焼きたてのケーキにナイフを入れると中からチョコレートがとろりと流れ出ます。ジャンドゥイヤはピエモンテで多く生産されいろいろなお菓子に使われているへーゼルナッツとカカオを合わせたチョコレートです。そして、カッファレルは1826年にトリノに生まれたジャンドゥイヤの元祖です。このスフォルマティーノと一緒にふたつの陶器製のスプーンにはそれぞれカスタードとカッフェの味のムース、フレッシュな桃とラズベリーやブルーベリーなどと一緒にホオヅキも載せてありました。
アルバの黒トリュフと季節の果物。サン・マルコ自家製のグリッシーニ。
Sformatino caldo al cioccolato Gianduja "CAFFAREL"con salsa al caffe' 型焼きしたケーキにバニラ風味とコーヒー風味のクリーム添えに季節の果物。
Sformatino caldo al cioccolato Gianduja "CAFFAREL" con salsa al caffe' 型焼きしたケーキの中にはピエモンテ名物のへーゼルナッツ味の溶けたチョコレートが入っている。添えてある果物は桃やラズベリー、ほおづきなど。
食事が済むとマリウッチャさんが、ここには日本人もいるのよ、と若い日本人の夫婦も働いていて彼らを紹介してくれました。聞けば、アスティにある料理学校で勉強した後この店で修行しているそうです。アスティの料理学校とはI.C.I.F.という名前でアスティ郊外にあるコスティリオーレ城というお城の中にある学校です。実はこの学校は日本でイタリア料理の第一人者と言われる室井克義さんが1991年にとても苦労をして設立した学校で、素晴らしい教授陣と厳選された最上の食材を使って勉強できると評判の料理学校です。マリウッチャさんはこの学校の講師でもあるし、イタリア国内外でも料理を教えたりしています。僕は2000年にその学校を訪問したことがあって懐かしく思いました。
日本でイタリア料理のブームが始まったのは80年代の終わりごろですが、そのブームに乗ってたくさんの若者達がイタリアへ料理修行に出ました。僕もよく相談されたりしてイタリアの修行先を紹介したこともありますが、真面目で、繊細な味覚のセンスを持った日本人はとても好感を持たれ、帰国するとみなさんがイタリアでの修行を実らせて独立したり一流のレストランで体験を活かしていますね。
最近は逆に日本料理がとても注目され、日本料理を習いたいというイタリア人にもしばしば出会います。生の魚や肉料理もオリーブオイルをかければカルパッチョ、醤油を使えばお刺身、天ぷらはイタリアではフリットで、イタリア人と日本人の味覚にはとても共通なところがあります。レストランのテーブルとは食べ物を通して異国の文化を楽しく理解できる場でもあるのですね。
サン・マルコのオーナー夫妻とスタッフのみなさん。ICEFで修行した日本人の若い夫婦も働いていました。
*Ristorante ”San Marco" di Pier Carlo e Mariuccia ferrero
Via Alba, 136 - 14053 Canelli-AT-Italia
Tel:041/823544 e-mail:rist_sanmarco@libero.it

