ポッジャレッロのオルトゥルーゴ

イタリアのワインを理解するのは難しい・・・と、これはソムリエやレストラン関係のプロの人たちからもしばしば聞かれることです。その一番の理由は、全土20州に渡って様々な土着品種の葡萄があって、現在、イタリアのワイン法に認められているものだけでもざっと300種はあるからです。例えば、シチリアのノチェーラとかピエモンテのデューダンリー、ヴェネトにはフラゴリーノとならんでご禁制ですが、クリントンなんていうのもあります。覚えきれないどころか、数え切れないくらいです。また、ひとくちに、ランブルスコと言っても、グラスパ・ロッサ種、サラミーノ種、マラーニ種、マルボ・ジェンティーレ種やまれに、アンチェッロッタ種が組み合わされたりします。バローロやバルバレスコを造るネッビオーロにしてもミケ、ランピア、ロゼと細別されていますし、そのネッビオーロも産地が変わればスパンナとかキャヴェンナスカと呼ばれています。更にピエモンテでネッビオーロから白ワインは造りませんが、ロンバルディアではキャヴェンナスカから白ワインを造るところもあるのです。まあ、だからこそイタリアのワインは幅も広く、奥が深く、ある意味、めちゃくちゃのようなところが面白いと思うのですが、体系的に勉強しようとするとやっぱり難しいものですね。

そんなことを考えながらピエモンテからエミリア・ロマーニャまで旅をして来たところで、極上のランブルスコを造っているカサーリ社の社長、ジョヴァンニ・シドリ氏の友人、マッシモ・ペリーニさんがやっているピアチェンツァのワイナリーを紹介されました。ピアチェンツァはエミリア・ロマーニャ州と言っても、ずっとミラノに近く、このあたりではロンバルディア州のオルトレポ・パヴェーゼとピアチェンツァのふたつのDOCにまたがってワインを造っているところもあります。
パダナ平野の大きな空と雲。これが”イタリアの青空”。

紹介されて訪ねたところは、ピアチェンツァから南西に流れるポー川の支流、トレッビア川に沿って25kmほどのところにあるスクリッヴェラーノ・ディ・トラヴォにある”イル・ポッジャレッロ”というワイナリーです。道中にはリヴァルタ、ジュンチ、スタット、モンテキアーロなど中世からの古城があり、歴史的にも興味深い地域です。“イル・ポッジャレッロ”のワイナリーはスタット城を過ぎたあたりで西側の丘の上にあります。このワイナリーの母体にはクワトロ・ヴァッリ(4Valli)というワイナリーがあり、マッシモさんで4代目になりますが、代々、このポッジャレッロでワインを造っていた農家のペリーニ家とピアチェンツァの樽造り職人、フェッラーリ家が100年以上も協力しあって来ました。1952年にこのクワトロ・ヴァッリを創設し、現在では他にも“ラ・コスタ・ビネッリ”、“ペリネッリ”などを含め合計5つのワイナリーを運営しています。
ワイナリー、イル・ポッジョレッロの母屋。

ワイナリーに到着してまず目に入ったのが様々な花々と葡萄棚に飾られた瀟洒な石造りの家でした。マッシモさんはこのワイナリーは訪れる人全てに開放して田園の美しさとワインの素晴らしさを楽しんで欲しいと思い、ワイナリーにはそうした配慮に満ちています。庭先から見下ろす葡萄畑、そして来る途中に昼食をとった”Le Ruote"(www.hotelleruote.it)というレストランホテルで飲んだスプマンテで初体験した不思議な味わいの葡萄、オルトゥルーゴに会えたのです。明るい緑色の葉陰に実るその房は翡翠のような透明感を持った美しい葡萄でした。洋ナシのラ・フランスにも似た甘い香りがありながら、キリリとしまった味わいのスプマンテにはいっぺんに惚れてしまいました。シャンパーニュをはじめ、ランブルスコもプロセッコも、スプマンテというのはその立ち上る繊細な泡によって飲む人を一瞬にして幸せな気持ちにさせるものですね。

(左上)9月中旬、収穫目前の葡萄畑。
(上)オルトゥルーゴ種の葡萄。
(左)右から3番目がオルトゥルーゴ主体にシャルドネ、ピノ・ネロから生まれたスプマンテ。秀逸!左右にならぶ白ワインも最近のイタリアワインでは珍しく、超辛口。

マッシモさんはとても陽気でいつもニコニコと楽しそうで冗談を連発し、ダジャレ王を自称する僕とは車の中でも笑いあっていましたが、ワイナリーにある農機具の博物館みたいな納屋に入ってびっくりです。螺旋階段を上がった2階にあるのですが、なんとそこにはイタリアの大衆車の魁となった名車、フィアット・チンクエチェントが置いてあるのです。それも建物を修復したときに出入り口が小さくなってしまい出せなくなってしまったというからなおさら笑えました。(写真)2階の納屋に閉じ込められてしまったフィアット・チンクエチェント。

ジョークが大好きなマッシモ。

“イル・ポッジャレッロ”のワインでもうひとつのお目当ては、 “グットゥルニオ(Gutturnio)”というコッリ・ピアチェンティーニDOCの赤ワインです。バルベーラ種とクロアティーナ種から造られるワインですが、トスカーナのブルネッロやピエモンテのバローロにも比較できる素晴らしいワインなのに、日本ではあまり馴染みがありません。クロアティーナは別名、ボナルダともいい、ロンバルディア、ピエモンテ、エミリア=ロマーニャ州で一般的に使用される葡萄です。バルベーラと並びカジュアルなワインとして造られてきたので、その真価が誤解されているようです。特にブランド指向が強い日本の市場では先入観に邪魔されてプロの方でも正しい評価ができる人が少ないのは残念です。あまり引き合いに出したくはないのですが、ガンベロ・ロッソの評価でもグラス2つマークを得ているポッジャレッロの”La Barbona Riserva”を体験すればそれまでの誤解の雲はすっきりと晴れ渡り、エミリア=ロマーニャのワインを再認識するはずです。
ポッジョレッロの居並ぶ赤ワイン。ピストンと呼ばれる白い磁器のお椀でバルベーラをガブ飲み。金のラベルが僕のお気に入り。

レッジョ・エミリアのカヴァッツォーネに戻る途中でマッシモさんがリヴァルタの城に立ち寄ってくれました。城では何かのイベントの片付けがあって入ることが出来ませんでしたが、その向かいにあるリストランテを覗かせて頂きました。“アンティカ・ロカンダ・デル・ファルコ (www.locandadelfalco.com)”というレストランの傍らには地元の食材を美しく飾ってあるコーナーがあり、マッシモさんのワインのお得意先というオーナーのマルコ・ピアッツァさんがいかにもレストランの経営者にふさわしい風貌でした。日本に帰国したらもう、訪問したことのお礼がメールで届いていた心遣いなど、次回にはぜひここでゆっくりと食事をして、お城の見学も楽しみたいと思っています。これから、イタリア旅行を計画している方にも、エミリア・ロマーニャにはボローニャやパルマ、モデナ、ラヴェンナだけではない魅力的なところがたくさんありますから、ぜひ開拓してみて下さい。

(左)ガッツォーラにあるリヴァルタ城の脇の教会。(右)リヴァルタ城の美しい窓。


(左)リヴァルタ城にあるリストランテ”アンティカ・ロカンダ・デル・ファルコ”のショップとオーナーのマルコ・ピアッツァさん。(右)リストランテでマルコ・ピアッツァさんと談笑するマッシモ。

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コメント (2)

鶴見圭祐:

篠さん、こんにちは。
このワイナリーいいですね、ぜひ行きたいと思いました。夏の北イタリアも捨てがたいです。あとヴェネツィアの船の模型も惹かれます。個人的にはイタリアの模型店に行くことが多くて、私はHOゲージを2,3台お土産に買ってきたりします(安売りのものしかかいませんが。。)
さて、以前、ご快諾頂いた日伊文化研究の新刊紹介ですが、先日といあわせたところ、私の原稿は不採用とのことでした。残念で、かつせっかくご協力頂けたのに大変申し訳ありませんが、ご報告致します。これにめげずまたイタリアを追いかけようと思います。それにしても日伊協会のあの担当者は高飛車なんだよなー。仕方ありませんね。今は、別のサイトにコラムかいてます。もうすぐ2回目が月末に出る予定です。お時間があれば、ぜひお気軽にどうぞ。 http://www.japanitaly.com/jp/specialreports/zoomup.html

ito-ani:

少しはイタリアワインを学ぼうと本を買って読んでいるのですが、奥が深いですね。篠さんのブログを見ると更に驚きです。これだけいろいろと美味しそうなワインがあると、ハマると体を壊しそう~。

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篠 利幸

1977年初渡欧、画家としてしばらく活動後、イタリアの写真を撮り始める。書籍、雑誌等で写真と文筆の両面で活動、「田園のイタリアへ!アグリトゥリズモの旅」(NTT出版)、「トスカーナの青い空」(東京書籍)など著書多数。 新ブログスタートしました→http://blogs.yahoo.co.jp/fotombra

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