ヴェネツィアを訪れると道行くたびに「ゴンドラ、ゴンドラ」と言う呼び声を耳にします。何度も通っている間に帰国してもその呼び声が耳に残り郷愁を覚えます。 ヴェネツィアにゴンドラは無くてはならない関係です。他にも様々なスタイルの船が運河やラグーナ(潟)を行き交い、それを眺めているだけでも楽しいものです。ゴンドラに乗ったときの低い目線から眺めるヴェネツィアもいいものです。ゆったりと櫂が水を掻く音を聞きながら橋を潜り、古びた館の壁をすれすれに通り過ぎ、大運河からサン・マルコ教会やドゥカーレ宮殿を眺めた時のヴェネツィアならではの晴れやかな光景は生涯忘れられないものになるでしょう。また、日常的には運河の対岸を往来する渡しのゴンドラもあり、これは僕もしばしば利用します。
ゴンドラは観光用だけでなく庶民と足として渡し舟にも使われている。
輸送量からしても最も利用されるのが水上バスでしょうが、いつも観光客で超満員ですし、ヴェネツィアでは観光客と住民とは料金が驚くほど違うので、迷路のような道を覚えたら歩いた方がいい時もあります。しかし、サンタ・ルチア駅からヴァポレットと呼ばれる水上バスに乗ってサン・マルコまで大運河を往復すると、ヴェネツィアの代表的な建物のほとんどを観賞することもできる楽しみもあります。

(左)観光客もヴェネツィア人も最も利用するのが水上バス。今ではディーゼルエンジンで動くが、かつては”蒸気船”だったので、未だにその名前”ヴァポレット”と呼ばれている。
(右)様々な業種の輸送に多く使われているタイプ。
マスカレータという女子の競艇用のボートで、浅瀬のラグーナ(潟)に適したスタイルをしている。
ヴェネツィアを歩いていていつも気になる店がサン・ポロ広場とティントレットの名作が多くあることで有名なサン・ロッコの間にあります。小さなショーウィンドーには精巧に造られた様々な船のモデルが飾ってあります。自分で組み立てて楽しむキットもあります。船が好きな人なら必ずやひとつ、ふたつ買って帰りたくなるものです。僕もふたつほど買ったことがありますが、そのモデルを作っているのがヴェネツィアの船の研究の第一人者として知られるジルベルト・ペンツォ氏です。


(左)ジルベルト・ペンツォ氏のショールーム(右)ショーウィンドーに並べられた各種船舶のモデル
1954年にヴェネツィアの隣の漁村、キオッジャで船大工の家に生まれたペンツォ氏は幼少から船に関心を持つように育ってきました。しかし、時代の流れにしたがい、昔ながらの木造の船が減り、ファイバー製の現代的な形のボートが増え、また環境や産業の変化にともない、ヴェネツィアやキオッジャの人口も減少してくると必然、伝統的な船を使っていた漁師や船乗りたちも少なくなり、船も消えていきます。
そんな状況を見てペンツォ氏はヴェネツィアの伝統的な船の文化を後世に残したいと、船の修復や再現に情熱を注いでいます。船に関する著作も多く、世界的に高く評価されています。最近の著作は水上バス、ヴァポレットについて書いた本です。ペンツォ氏は「ヴァポレットはそんなに伝統的な古いものではないが、やはりこんな形の船はヴェネツィアにしかないもので、形もなかなか美しいものだと思う。そうだろ?」と言いました。その通りですね。

(左)トポと呼ばれる漁業用の帆船で、ペンツォ氏の生まれたキオッジャの漁師が使用していた。手にしているのはサンピエロータで1本マストの帆を張ることも出来る。黒いゴンドラの手間にあるのもサンピエロータのモデル。
(右)ペンツォ氏のショールームに並ぶ数々の著作。窓際に並んでいるのはゴンドラの櫂を置くフォルコラで、その美しい形から置物として所望する人も多い。ペンツォ氏はフォルコラの小さなキーホルダーを作って売っている。
ヴェネツィアは千年も昔から海洋国として発展しましたから、当然、造船にかけても一流の伝統を持っています。ラグーナという浅瀬で利用されるため船底がほとんど平らになった構造の船が多く、ゴンドラもそうです。ゴンドラはゴンドリエ(船頭)が船尾の片側に立って漕ぐために、左右非対称の船体にしてバランスが取り易く造られています。とても美しい形ですが、建造には伝統に裏打ちされた高度な技術が必要です。かつてはヴェネツィアにいくつかあったスクエーロという造船所も今ではサン・トロヴァーゾ教会の近くの一箇所になってしまいました。ペンツォ氏が造るモデルにはすでにヴェネツィアから消えてしまった形の船もあります。そのような船も古い文献などを調べ、精密な図面を起こして再現します。地球温暖化による水位の上昇でヴェネツィアがいつの日か沈む日が来るかも知れませんが、ペンツォ氏が研究しているヴェネツィアの船舶の文献とモデルは本物よりも末永く生き残ることでしょう。
ゴンドラの舳先にある櫛状の形は、一番上部がヴェネツィア総督の帽子の形で、その下にはヴェネツィアの7つの地区を表わしている。
スクエーロと呼ばれるゴンドラの造船所。ヴェネツィアで最も古い17世紀から続くサン・トロヴァーゾの造船所をモデルにしている。

(左)今日のサン・トロヴァーゾのゴンドラ造船所。(右)ペンツォ氏が描いたブチントーロはヴェネツィア総督が使用する御用船。 マストの旗にはヴェネツィアのシンボルである獅子が描かれている。


コメント (5)
来年2月久しぶりにベニスに行きます。2回目ですから、ちゃんと本を読んでしっかり調べて、写真の撮影場所を考えておく予定です。これはとても貴重な情報です。いつも仕事でフィレンツエの展示会(ピッティー・フィラッティ)の帰り、土日、イタリアの都市どこか選んで立ち寄ります。今回はベニスです。うーん、今からとても楽しみ。ちゃんと勉強してから出かけよう!
投稿者: angelo | 2006年11月28日 19:30
日時: 2006年11月28日 19:30
来年2月久しぶりにベニスに行きます。2回目ですから、ちゃんと本を読んでしっかり調べて、写真の撮影場所を考えておく予定です。これはとても貴重な情報です。いつも仕事でフィレンツエの展示会(ピッティー・フィラッティ)の帰り、土日、イタリアの都市どこか選んで立ち寄ります。今回はベニスです。うーん、今からとても楽しみ。ちゃんと勉強してから出かけよう!
投稿者: angelo | 2006年11月28日 19:30
日時: 2006年11月28日 19:30
angeloさん、ヴェネツィアはフィレンツェからなら2時間ですから、朝、早めの列車に乗れば、ランチにも間に合いますね。2月はカルネヴァーレもあるから、少々寒くても写真撮影は楽しいでしょう。
冬は日が短いので写真の装備はシンプルに、軽快なフットワークでスナップを楽しんで下さい。
投稿者: 旅人しのちゃん | 2006年11月28日 22:48
日時: 2006年11月28日 22:48
最近日本のTV番組で和船の船大工さんのお仕事を拝見しました。和船の需要が激減しているので工房ではヨット製作などもなさっておられたようです。木造の船の美しさ、技術の高さに感心しました。ヴェネツィアも伝統的な造船が激減しているとはいえ、ゴンドラが現役で活躍していることは幸せなことだなーと思いました。
じつはまだ、ゴンドラに乗ったことがありません。真冬にしか行かない&なかなか体調と天候に恵まれない&一人旅、と、ゴンドラを楽しむのには条件がよくないのです。次回は乗る機会があると良いのですが・・・・。
投稿者: おーぱすわんわん | 2006年11月29日 12:58
日時: 2006年11月29日 12:58
おーぱすわん様、深川の門前仲町を流れる大横川では毎週水曜日に和船に乗る会があります。僕も仲間入りしたいと去年から言っているのですが、なかなか暇が無くて実現できていませんが、来春、桜の時期までには仲間入りして、自分の手で和船を操り、桜を観賞したいですね。この和船、一艘作るのに700万円くらいかかるそうですが、ゴンドラはその倍とか。需要が減ると経費も掛かりますね。ユーロの高値が続いていますから、ゴンドラに乗るのも大変です。しかし、リアルトの市場からカ・ドーロに渡るトラゲットだけでも体験してきてください。楽しいですよ!
投稿者: 旅人しのちゃん | 2006年11月29日 15:24
日時: 2006年11月29日 15:24