
サン・ジョルジョ・マジョーレの鐘楼から
ヴェネツィアの楽しさはアドリア海の水が入り込む大小の運河と無数の小さな島々を結ぶ橋と細い路地の織り成す迷路を歩くことでしょう。その路地にはカーニバルの仮面を売る店やアンティークの小物や昔ながらの皮や織物、手漉き紙を使った手仕事の工房、香辛料店や古びた薬局と珈琲店があり、それらは中世以来のオリエント交易の時代から異国情緒を醸し出す役割を担ってきました。

ジャ・スキアーヴィ


(左)ヴェネツィア カフェ&バーカロでめぐる、12の迷宮路地散歩 (右)アッラルコのオーナー、フランコ
他の都市と違って、車が走れないこともこの都市を特異な存在となることの大きな要因で、それは住民にとっては時代の流れに乗れず極めて不自由な生活をがまんすることになるのですが、観光客にとっては本来の人間のスピードで24時間を過ごすことを思い出させてくれる貴重な空間であり、またヴェネツィア人にとっても本当は自慢すべき“時代遅れ”だということなのだと思います。



(左)アッラルコ (真ん中)アッラ・ヴェドヴァのフェーガト・アッラ・ヴェネツィアーナ (右)グレゴレットのマンゾーニ・ビアンコ

ゴンドラの装飾
不自由さと便利さ、観光客が溢れる町に住むことの煩わしさと常に異国の文化と接するスリリングな空間。その空間の間にあるのが居酒屋やバールでしょう。酒好きな人にとって、その液体は喜怒哀楽という相反するものの間に存在し、それらを自分という空間の中で巧く折り合いを付けさせてくれる救いの飲み物でもあります。また、酒が飲めなくとも、美味なるもの、美しきものがその役割を十分に果たしてくれるはずで、それらを発見するにことかかないのがヴェネツィアという都市です。
はじめて、イタリアを訪れた時、そのきっかけともなった友人がヴェネツィア人であったことから、この町はことさらに親しく感じたのですが、あれから30年余り通い続けてみると、ほとんど住んでいることと同じほどの心情でこの都市を見つめ、抱かれ、とうとう離れられない愛着を感じてしまうのです。それらの思いを、写真家として、文筆家として、さらに一介のワイン好きな旅人として、ここに生きる人々との交流を重ねた結果、ようやく一冊の本にまとめることが出来ました。
「ヴェネツィア カフェ&バーカロでめぐる、12の迷宮路地散歩」、7月18日にダイアモンド社から出版されますこの本は、ある意味、僕の人生の半分以上を関わって来た、ヴェネツィアに対するオマージュの何物でもありません。今では、この町の迷路のほとんどを空で覚え、真夜中の暗闇でも歩けるようになりましたが、それでもしばしば狐につままれたように、自分の居場所が分からなくなることもあります。


(左)ゴンドラ、光と影 (右)アッラ・マスカレータの恋
自分の居場所を探る、この哲学的な命題を常に投げかけてくるヴェネツィアで、時間の限られた旅ならば、なるべく道に迷わず、また五感の欲求を満足させるための目標に無駄な労力を最小限にして達することが出来るように配慮して、詳細で分かり易い地図とふんだんな写真のイメージで作り上げたのがこのガイドブックです。あるいはガイドブックという体裁を持っていますが、実はこの町とこの町に生きる人々の物語であり、その温もりを感じて頂けるなら著者としてこの上ない喜びであります。
31年前に初めて歩いた懐かしの路地から、ついこの間もそのバンコ(カウンター)でワインを飲んでいた居酒屋まで、百数十頁の中に集約するには、相当数の割愛する写真や記憶の断片と連続があったことは言うまでもありません。これまで作ってきた10冊余りの本の中で思いのほか完成までに時間が掛かってしまったのも、それなりの思いの大きさゆえということが、完成した本を手に取り実感しました。

アル・ヴォルト
昨年、ソニー・マガジンズから出た「イタリア好き」はイタリアを総体的にとらえた上で抽出された思いの本であり、イタリアの南から北までの空間的な広がりを持つならば、このヴェネツィアの本は自分のこれまでの人生という時間軸に沿って重ねてきた思いの結晶と言えるでしょう。「イタリア好き」同様に多くの読者の方々に愛される本となることを願ってます。

ラ・フラスカのマリオとアメリカの学生たち


コメント (16)
出版おめでとうございます!!
今日さっそく本を探しにいきましたが、ありませんでした・・・笑
早く読みたいです★
今年の1月から3月の間にヴェネチアに2回足を運び、
2週間以上の滞在をし、どの写真もどこか懐かしく感じます。
投稿者: yumi | 2008年07月18日 23:33
日時: 2008年07月18日 23:33
篠さん、覚えていますか?メークアーテストのイタリア好き<最近はフィレンツエばかりですが>のともこです。篠さんのブログを見つけて拝見させて戴いていました。今回は、ヴェネチュアの本を出版と聞き<もちろん購入させて頂きます>おめでとうを言いたくコメントさせて頂きました。凄いですね。これからも、お体に気をつけて大好きなイタリアと共に益々のご活躍お祈りしています。暇が、出来ましたらまた、美味しいワインでも一緒にsaliteいたしましょう。
投稿者: 後藤智子 | 2008年07月22日 18:27
日時: 2008年07月22日 18:27
Yumiさん、すみません、書店への配本が18日だったそうです。でも、今は近所の小さな書店にもあります。M君も2回登場していますよ!
投稿者: カモメのしのちゃん | 2008年07月22日 22:07
日時: 2008年07月22日 22:07
篠さん、はじめまして。7月末にヴェネツィアに行き、篠さんがブログで書いていらした「アル・ディアボロ・エ・ラックアサンタ(悪魔と聖水)」に両親とともに行ってきました。雰囲気も良く、美味しいお店で、ブログで紹介して頂き、本当に有難うございます。とても気に入り、2回行ってしまいました。
去年も夫とヴェネツィアに行ったのですが、このようないいお店には出会えず仕舞い。去年、篠さんのブログや本に出会えていればと思わずにはいられません。
お店のご主人が、この本と「悪魔と聖水」のブログ記事を印刷したものを見せて下さったので、「そうそう!これを見てきたんです!!」と、挨拶程度のイタリア語しかできない私は、身振りでお伝えしました。たぶん、伝わってると思います(汗)。
帰国後、篠さんのブログを拝見し、さっそく本を注文しました。ヴェネツィアの楽しかった記憶が呼び覚まされると同時に、また近いうちにヴェネツィアに行きたくなりました。
投稿者: きのこ | 2008年08月04日 08:41
日時: 2008年08月04日 08:41
きのこ様、ぼくの情報がお役に立ってとても嬉しいです。今度のヴェネツィアの本を持って行ったらもっともっと楽しんで頂けると思います。次は是非、冬のヴェネツィアをお楽しみ下さい。バーカロの温もり、ヴェネツィアっ子のハートを感じますよ!
投稿者: オンブラしのちゃん | 2008年08月05日 08:00
日時: 2008年08月05日 08:00
はじめまして
「ヴェネツィア カフェ&バーカロでめぐる、12の迷宮路地散歩」を片手に16日からベネツィアとローマへ妻と遊びに行きます。私にとっては初めてのイタリアです。
Osteria al Diavolo eL’Aquasanta、Alla Vedovaなど、ぜひ楽しんできたいと思います。
投稿者: ぷーさん | 2008年11月08日 16:41
日時: 2008年11月08日 16:41
ぷーさん、コメントをありがとうございます。ご夫婦でローマとヴェネツィアの旅、いいですねぇ。僕も24日からシチリアを巡り、12月1,2日とヴェネツィアです。この本を取材させて頂いた友人たちへ本を届けたり、挨拶まわりです。日本の出版界では取材したままのところも少なくないのですが、僕の本はみんなイタリアの友人たちのお陰なので、ちゃんとフォローも大事にします。書店のアックア・アルタにも是非、お立ち寄り下さい。では、Buon Viaggio!
投稿者: 旅人しのちゃん | 2008年11月11日 10:21
日時: 2008年11月11日 10:21
今晩はしのさん。
ただ今ヴェネチアから自宅に戻って着ました。
「ヴェネチア カフェeバーカロでめぐる、12の迷宮路地散歩」を片手に4日間、迷宮路地、バーカロを巡る迷子の酔っ払い散歩をやってきました。なる程、バーカロで飲んで食べて、満足してリストランテの半分以下の値段ですからいいですね~。でも、そんな使い方はほとんどがツーリスト「未亡人の店」はその最たるもの、ツーリストが外でオンブラエチケッティして席待ちしているほどでした。確かにヴェネチアのオアシス、バーカロはたいせつにしたい。土足でドカドカと踏み込まれたくない、そんな気持ちです。バーカロ巡りする時は篠さん本読んで、水戸黄門の御印籠代わりにこの本を片手にombraするのがいいです。皆てってもフレンドリーになってくれました。それから、「いいなずけ」は8月にオーナーが変わり、新しい方から篠さんからのとても丁重な手紙に感謝しているとのことでした。
投稿者: ヴェネチア酒場 | 2008年11月12日 23:00
日時: 2008年11月12日 23:00
20数年前に建築大学に通いながらヴェネチアに暮らしていた時期がありました。バーカロは先生と学生との交流の場として毎日のようにいきました。本を見ながら、いくつかのなじみの店に懐かしい思いをめぐらせています。最近できた店も多いようですが、自分の知らない店がこんなにもあるとはびっくりです。
この年末に、12歳になった息子に、父親が学生時代をすごしたヴェネチアを見せに行こうかと思っています。初めてのヴェネチアに彼はどんな印象を持つのか楽しみです。僕もだいぶ土地勘もなくなっているので、この本をよき参考書にして廻ってみたいと思います。
投稿者: のぶ | 2008年11月13日 10:18
日時: 2008年11月13日 10:18
はじめまして
「12の迷宮路地散歩」是非欲しいなと思ってamazonを検索しはじめたところ、待てよと。。。なんと妻が「ベニスのおいしい店を探そうと思って」と昨日買ってき本が、それでした。「えらい!!」と褒めたい気分です。
11/18から8歳の息子と3人でベニス、フィレンツェ、ローマと旅する予定ですが、子連れにお勧めのカフェ・バーカロがあるようでしたら教えていただけませんでしょうか。
ユーロに変わったイタリア再訪を楽しみにしております
投稿者: コンタ | 2008年11月15日 07:26
日時: 2008年11月15日 07:26
ヴェネツィア酒場様、「いいなずけ」情報をありがとうございます。ここは最初に始めたマルコが南米にいる愛人のところに頻繁に行くために、たえず誰かに任せ、代替わりが激しいところです。まあ、ヴェネツィアではここだけでなく、かのカサノヴァが足しげく通ったド・スパーデもそうです。いずこにも諸行無常、会者定離というわけですね。その反面、新たな出会いもあるわけで、12月1,2日とヴェネツィアに行きますから、新しい亭主に会ってきます。ありがとうございます。
投稿者: 旅人しのちゃん | 2008年11月17日 19:51
日時: 2008年11月17日 19:51
のぶさま、20数年前のヴェネツィアですか。僕が始めて訪れたのが1977年、それ以来通いつめています。建築ではパッラーディオやヴェネツィアの独特の住居と都市の研究で日本からも少なくない研究者の方々が長期滞在していますね。かの、スカルパは不運にも日本で交通事故に遭ってなくなりましたが、ヴェネツィアの建築大学の門には彼のモニュメントもありますね。12歳の息子さんの感性にこの古都がどう見えるか僕も大変興味深いです。帰国されたら、また感想をお聞かせ下さい。
投稿者: 旅人しのちゃん | 2008年11月17日 19:58
日時: 2008年11月17日 19:58
コンタさま。子連れの旅、8歳ではもう3分の1は大人の世界を理解していますね。近年は二十歳を過ぎると、また逆行しているようですが。お薦めの店は、リアルトの魚市場の前のDa Pintoです。市場は息子さんにとってもいろいろと興味深いと思います。また、渡しのゴンドラも市場から対岸に出ていますので、気軽にヴェネツィアらしさを楽しむためにもお薦めです。僕も来月1,2日とヴェネツィアです。
投稿者: 旅人しのちゃん | 2008年11月17日 20:03
日時: 2008年11月17日 20:03
本日、帰国しました。
「ヴェネツィア カフェ&バーカロで巡る、12の迷宮路地散歩」を持って Osteria al Diavolo eL’Aquasantaへ行くと、店の渋い声の方が本を見て「トシさん」と言ってニッコリとされました。Do Moriでは鰯の酢漬けのチケッティとフラゴリーノを楽しみました。また、Alla Vedova へはスカンピのスパゲティに惹かれて二晩連続で訪れました。
本とこのページのお蔭で、旅行をより楽しむことが出来ました。有り難うございます。
投稿者: ー | 2008年11月23日 15:38
日時: 2008年11月23日 15:38
篠さん、11/26に帰国しましたコンタです
子連れにお薦めの店紹介ありがとうございます。でも、残念ながら確認して出発できませんでした。
とはいえ、Da Pintoに近いアッラルコとピザが美味しかったアチュゲータ行きましたよ。
アッラルコのような裏道の店に入れると、自分だけの旅をしている気分になれとても嬉しいですね。子供もお客さんの間にうずもれるようにしながらパニーニをほうばりました。
次の予定は見えないけれど「迷宮路地散歩」見ながら写真整理しようと思います
投稿者: コンタ | 2008年11月29日 11:36
日時: 2008年11月29日 11:36
コンタ様、僕のコメントの返信のアップが間に合わなかったですね。でも、拙著でヴェネツィアを楽しんで頂けたようで、僕も嬉しいです。是非またヴェネツィアへ、そしてシチリアやトスカーナのアグリトゥリーズモなどイタリア各地の旅をお楽しみ下さい。
投稿者: 旅人 | 2008年12月11日 15:20
日時: 2008年12月11日 15:20