ワインのあるべき姿、カステッジョのアルバーニ

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アルバーニのワイナリーで試飲の準備を整えたリッカルド・アルバーニ

●ミラノからポー河を越えて
オルトレ・ポー・パヴェーゼ(ポー河の向こうにあるパヴィアの地)、ミラノから車で1時間弱南下しポー河を越えたヴォゲーラの近くにカステッジョという小さな町がある。そこからもう少し南の丘陵地帯に入って行くサン・ヴィアージョ通り沿いに小さな田舎家のワイナリー、アルバーニがある。ワイナリーとしてはイタリアによくある家族経営の小さな葡萄農家だが、畑はその家や酒蔵を囲んだ周囲に広がり、ジープで左右に大きく揺られながら案内されると、サン・ヴィアージョ通りを挟んで、ここも、あそこもとびっくりする。

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サン・ヴィアージョ通りから見たアルバーニのワイナリー。建物の裏手に葡萄畑が広がる

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ワイナリーの前の道路の向かいにも葡萄畑が広がる

明るく陽光に照らされた丘の斜面の畑にはバルベーラ、ボナルダ、クロアティーナ、ウーヴァ・ラーラ、ヴェスポリーナ、ピノ・ネーロ、リースリングと様々な品種の葡萄が畑の微妙に異なる土質や日当たりの具合により区分けされ栽培されている。クロアティーナ、ウーヴァ・ラーラはボナルダと同系の葡萄である。ヴェスポリーナは別名ウゲッタとも呼ばれるが、ピノ・ネーロ、リースリング以外はいずれもこの地方のみではなくピエモンテのノヴァーラ周辺やロンバルディアからエミリア・ロマーニャ西部で広く栽培される葡萄でいずれもローマ時代からこの土地に存在する土着品種である。

オルトレ・ポー・パヴェーゼのワインでは10年ほど前にカステッジョから東へ30キロほど車を走らせたロヴェスカラにあるカステッロ・ディ・ルッツァーノという由緒あるワイナリーを訪ね、アグリトゥリズモとしても日本に紹介しているが、トスカーナやピエモンテ、ヴェネトなどに比べ日本ではあまり知られていない地味なイメージのワイン産地であった。しかし、ワイン生産としての歴史はローマ時代まで遡り、あまり流行にも乗らずに地元の人々に愛されてきたせいもあり、伝統的でいかにもイタリアのワインと感じさせる銘酒が数多くある。

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リッカルド・アルバーニの婚約者のクリスティーナさん


●アブルッツォのペペを彷彿とさせるワイン
ヴィニタリーの会場でイタリアの友人から興味深いワインがあるから飲んでみないかと誘われて行き紹介されたのがリッカルド・アルバーニであった。大柄の無骨な感じの男で、大きく見開いた眼でしっかりとこちらを見つめ、ゆっくり味わってくれと椅子を勧めるとすぐに10本ほどのワインをずらりと並べた。今年の春もヴィニタリーの会場で彼を訪ねるとすぐに、「さあ、座ってテイスティングをしてくれ。今日は“Costa del Morone”の02,03,04,05を飲み比べてもらうよ」とさっそくボトルを並べた。昨年飲んで大変気に入った99年物はすでに在庫稀少で出ていなかった。リッカルドは02年のワインをグラスに少し注ぎ、注意深く回しながらグラス全体にワインを馴染ませ、それを捨ててから改めて、ゆっくりと、慎重にワインを注ぎ、こちらに渡す。その仕草と真剣な眼差しを黙って見つめながら、彼の生涯を掛けた仕事を全身で受ける心地でグラスを手に取った。

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ヴェローナのヴィニタリーのブースでサービスをするリッカルド

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ワイナリーの試飲でリースリングを注ぐリッカルド

“Costa del Morone”はバルベーラ種を65%にクロアティーナ、ピノ・ネーロ、ウーヴァ・ラーラ、ヴェスポリーナを少しづつ混ぜて造られている。このように4,5種の葡萄を混合して造るのはこの辺りでは普通に行われてきた伝統的方法で、イタリアのワイン法でのDOCに認定されている。昨年の春もその“Costa del Morone”を99年から順に飲みはじめたとき、おや、これはどこかで飲んだことがあるワインだなと感じていた。翌年、リッカルド・アルバーニから送ってもらったサンプルの02年を友人のインポーターAVICOの阿掛氏と飲んでいたときにもそのイメージが蘇り、同時に「これはペペだね」と言葉がついて出た。

ペペとはアブルッツォで頑なに伝統的な造りを守りつつ銘酒の誉れ高いモンテプルチャーノを作っているエミディオ・ペペのことである。バルベーラやボナルダ系の葡萄からえもいわれぬフルーティ且つ、晩秋の森の濡れた枯葉のような熟成香を芳醇に漂わすのは、葡萄の違いというよりも、むしろ葡萄という数千年の歴史を重ねた果実が共通に持っている要素が、大樽の中で醸されることにより、その自然の持ち味を自由に出し切ったところから生まれるものだろう。近代イタリアワインはブルゴーニュのピノ・ノワールから造られるワインを手本に長熟で複雑な味わいのワインに発展してきたと言えるが、より多種多様な葡萄を有するイタリアではフランス以上に幅広く、奥行きのあるワイン世界を更に期待させる。こうしたワインは20年、30年と長期熟成させてからじっくりと味わうワインなのだ。少なくとも10年は待って味わいたいものである。

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アルバーニの葡萄畑でAVICOの阿掛社長と記念写真を撮影

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たった12本だけ在庫があり日本に輸入できた1999年のVigne Della Casonaの貴重な1本

余談だが、オルトレ・ポー・パヴェーゼのピノ・ネーロはスプマンテが2007年にDOCGに認定されている。元来フランスのブルゴーニュ地方の葡萄であるピノ・ノワールだが、ナポレオンの時代にイタリアに入り、ピノ・ネーロとして栽培されてきた。現在ではピエモンテ州からマルケ州まで北を中心に多く栽培され、それぞれの土地を反映した興味深いイタリアのピノ・ネーロ種からはスプマンテやスティル・ワインが造られている。ことにフランチャコルタのスプマンテはフランスのシャンパーニュにも負けぬ味わいがある。スティル・タイプならば、ピエモンテではマルケージ・ディ・アルフィエーリのサン・ジェルマーノ、マルケではルイジ・マンチーニの赤ワインが素晴らしい。


●酸化防止剤すら使わないアルバーニのワイン
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ワイナリーの樽の前に立つリッカルド・アルバーニ

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春の陽光を浴びる葡萄畑

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とても優しいリッカルドのお母さん


アルバーニでは“Costa del Morone”とほぼ同じ組み合わせの葡萄から畑違いの“Vigne della Casona”を造っているが、この畑はアルバーニが先祖代々受け継いできた大事な畑である。半世紀ほど自分のところや友人、知人のためだけにワインを造るだけであったが、1991年からリッカルドが本格的にワイナリー経営に再挑戦し、当初は4,5ヘクタールだった葡萄畑も現在は20ヘクタールに拡大している。リッカルドのモットーは葡萄と自然の持つ力を信じ、畑には化学肥料や殺虫剤、除草剤などの浸透性農薬の一切を排除し、またワインの製造およびボトリング時にも二酸化硫黄などの化学的酸化防止剤、防腐剤など一切の薬品を使用しないということである。
葡萄の発酵も大量に収穫し厳選した房を大きなタンクに入れて、その自重によって搾り出る果汁のみを葡萄に付着している自然酵母のみで発酵させる、いわゆるフリーラン製法を取っている。畑とならぶ草地には養蜂箱がならんでいるが、葡萄の花の受粉をミツバチが行うためである。繊細な命のミツバチを守るためにも農薬はやっかいな存在なのである。近年、世界的にそのミツバチの生存が危機に晒されている。イタリアでは古来からワインは神の手によって作られ、グラッパは人の手に寄り作られるという諺があるが、アルバーニのようなワインを飲むと、これがワインの本来あるべき姿であろうと実感する。

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葡萄畑の周囲には様々な種類の木々の森があり、草地にはミツバチの養蜂箱が並んでいる


●まだまだ知られぬロンバルディアのワイン
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パヴィア近郊のアグリトゥリズモで飲んだ“Buttafuoco”.はサラミやハム、肉のローストなどに良く合うしっかりしたボディのワインであった

オルトレ・ポー・パヴェーゼのワインは日本ではまだまだ多く知られておらず、アルバーニと同じカステッジョ近郊からはリーノ・マーガが知る人ぞ知るという程度だが、ロンバルディア全体を見ても、山岳部のヴァルテッリーナ、ブレーシャ周辺で生産されるスプマンテのフランチャコルタが日本では良く知られているほうだ。かつてアグリトゥリズモの取材をしていたときに、“Buttafuoco”を飲んだが、やはりバルベーラ主体にボナルダやピノ・ネーロなどから構成されるもので、大変しっかりしたボディのあるワインであった。

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篠 利幸

1977年初渡欧、画家としてしばらく活動後、イタリアの写真を撮り始める。書籍、雑誌等で写真と文筆の両面で活動、「田園のイタリアへ!アグリトゥリズモの旅」(NTT出版)、「トスカーナの青い空」(東京書籍)など著書多数。 新ブログスタートしました→http://blogs.yahoo.co.jp/fotombra

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