リグリアのワイナリー、VisAmoris訪問記
■リグリア・ワインの代名詞、ピガート
今年の4月上旬、久々にコート・ダジュールを旅してからイタリア入りした。その最初に訪れたのがフランス国境を越えてすぐのインペリアにあるワイナリーヴィサモリス(VisAmoris)である。フランスと国境を接するイタリアの町、ヴェンティミリアから1時間足らずでインペリアに到着したが、そこからワイナリーにたどり着く道が分かりにくく我ら一行を乗せた小型バスのドライバーもワイナリーからの出迎えでようやく目的の場所に到着。ここで造っているのはピガートと言うリグリア特産の白葡萄のワインである。ピガート種はこのインペリア近郊のアルベンガという土地に十数世紀前から既に存在していた固有種で、古いリグリア方言で染みや斑点を“ピガ”というそうで、葡萄が熟成すると実の表面に褐色の斑点が現れることから“ピガート”と名付けられたのだ。

コート・ダジュールのイタリアに最も近い町、マントン。

国境を越えると風景も似て非なる雰囲気を感じる。

国境の町、ヴェンティミリアの道路標識。

ヴィサモリスの葡萄畑からインペリアを遠望。




リグリアの葡萄畑は地中海に面して陽光には恵まれるが急斜面での農作業はとてもハードだ。
■美味しいワインは“愛の力”から生まれる
ヴィサモリスのオーナー、ロベルトとロッサーナの夫婦がここでワイン造りを始めたのは2004年で、“Dome(ワイナリーがある土地の名前から取った)”というステンレスタンクのみで8ヶ月熟成させて仕上げられた白ワインとステンレスタンクで熟成させた後、更にオークの小樽で6ヶ月熟成させた“Sogno(夢)”の2種類の白ワインの他、リグリア特産のオリーブ、タジャスカ種100%のオイルも生産している。イタリアではある程度事業などに成功したりするとワイナリー経営をしてみたいという夢や計画を抱く人が少なくないようだが、それを成功させるには相当な覚悟と情熱がいる。また、白ワインの醸造にはコンピューターで温度管理されたステンレスタンクなど先行の設備投資も赤ワイン以上という。もちろん、まず肝心なのは良い葡萄畑を手に入れることだが、ロベルトはこの土地を代々持っていたがちょうどタイミング良く農夫の現役を退いたマリオさんから譲り受けた。また、オリーブ栽培についてはやはり土地っ子のジーノというパートナーにも出会えた。そして何よりもロベルトの、というより夫婦ふたりの夢を実現するために、いつも一緒に仕事をしてくれるロッサーナという妻の愛、その夫婦の愛と夢が困難な土地での厳しい仕事を楽しいものにさせている。ちなみに、VisAmorisというのはラテン語の“愛の力“という意味だそうで、ワイナリーのロゴマークにもハートと組み合わせてデザインされている。

“ヴィサモリス、愛の力“という名前に相応しい熱々の夫婦

まだ高校生の次男のピエロ君はニューヨークに行くことを夢に見ている。できればアメリカに留学したいそうだ。その手にしているのは野生のアスパラガス。

イタリアでは春になると野生のアスパラガスがあちこちに生えてくるが、ことに葡萄畑やオリーブ畑ではしばしば見つける。それを茹でてオリーブオイルだけで食す。

ヴィサモリスが生産している2種類の白ワイン。日本にはAvico(www.avico.jp)が輸入している。地中海に面した土地柄ゆえ、魚介料理にはぴったりのワイン。蒸し暑い日本の気候で、夏ばて美味の身体にはこのピガートで夏牡蠣やヒラメのカルパッチョ、あるいはアクア・パッツァなどを味わってはどうだろう。
■延々5時間、長い昼食
ヴィサモリスを訪ねたのは私が企画したツアーに参加した総勢14名。コート・ダジュールからしばしば道路工事などで渋滞があったり、前述したようにインペリアに着いてからも道に迷ったりで到着予定時間を2時間も過ぎてしまった。これはさぞや迷惑を掛けてしまったなと不安を抱えながらワイナリーに入ったのだが、出迎えたロベルトとロッサーナのふたりの笑顔でそんな心配はいつの間にか消えて、早速、冷えた白ワインを味わっていた。家の周囲は緩やかな斜面が囲み、オリーブ林や葡萄畑が見える。庭には大きな素焼きの壷が置いてあり、それを見てすぐにその上にボトルとワイングラスを置いて撮りたいとイメージが湧いた。
皆さん、食事の準備が出来ましたよと家の中に招かれると長細く大きなテーブルには真っ赤なクロスが敷かれ、鰯のマリネや干した鱈を水で戻して柔らかく調理してからマッシュポテトと合せるリグリア風のバッカラやボリジというコバルト・ブルーの美しい花のサラダやテーブル・クロスの赤にも負けない真っ赤に熟したトマトのスライスなどが並んでいた。圧巻はロベルトが自ら腕を奮って作った魚介のパスタ。スカンピやムール貝、アサリ、トゥリッリャなどをじっくりと煮込んだ濃厚なスープにトマトを加えて仕上げたソースのリングイネは何度もお変わりを頂いた。

これほど大人数を招いた食卓はワイナリー始まって以来だとロベルトもロッサーナも大喜びだったそうだ。人をもてなす喜びをまた喜ぶのがイタリア人。

魚介のスープを作るロベルト。イタリア男は料理の腕前もなくてはモテない。

目の前は地中海という恵まれた土地だからこそ生まれた魚介料理の典型。

出来上がった魚介のパスタの大きな鍋を嬉しそうに披露するロベルト。その右にいるのがオリーブ農園を運営するパートナーのジーノ。

鰯のマリネ、鰯の新鮮さが命だが、こんなに新鮮で美味しいマリネは初めてだ。そこに使われた自社製のオリーブオイルだからこそ出せる味わいだ。

リグリア風バッカラ。干し鱈はヨーロッパではどこでも食べるが、調理方法は地方ごとに異なる。ヴェネツィアのバッカラ・マンテカートはオリーブオイルでペースト状に仕上げたものだが、リグリア風はジャガイモが一緒になっている。これもまた大変美味。

その形から“牛の心臓”と呼ばれる大きなトマトとボリジの花。

美しいブルーの花、ボリジ。古代ギリシア人やローマ時代から健胃効果のある薬草としても利用されていると知ってはいたが、サラダで食べたのは初めて。小さな固い毛のようなものが生えていて口に入れると少しチクチクする感じだが、慣れると後を引く。

小麦粉と蜂蜜にオリーブオイルで焼き上げたお菓子。リグリアの伝統的な保存食だそうだ。
■急斜面の葡萄畑を散策して消化促進
ゆっくりと2時間あまり昼食と歓談の後、ロベルトが「さあ、葡萄畑を見に行こう」と声を掛ける。庭先からロベルトが指差す方を見上げると葡萄畑とオリーブの林の上にはまだ充分に明るい太陽と青空が広がっているのだが、その急な斜面に一瞬、皆、ここを登るのぉ・・・と怖気づく。しかし、地中海から吹き上がる風を感じながら斜面をゆっくり登り始めると、誰もがその心地よさに笑顔となり、たくさん食べたからバスに乗って移動する前にはこのくらいの運動はちょうどよいと楽しんだ。こういうところには必ず野生のアスパラガスが生えているはずだと私が言うと、一緒に着いて来たロベルトの次男のピエロがすかさずオリーブの木の根元などから数本の野生のアスパラガスを取ってきてくれた。
ロベルトが開墾したばかりの畑を示しながら「こんなに大きな石がごろごろしているから、本当に仕事はきついよ。しかし、かつては海の底だった土地だから、ミネラルはたっぷりだし、丁寧に葡萄を育てれれば良質のワインになることは確信できる。だからこそがんばれるんだね。」と笑った。小1時間ばかり葡萄畑やオリーブの木立の間を歩き回ってから、また車に乗って醸造所に移動し、まだステンレスタンクの中の2009年のワインを味わった。田園を散策した後のこの1杯もまた歓喜の味わいだ。

昼食の後、時刻は既に午後5時近くになっていたが4月上旬の空はまだまだ明るく、オリーブの林の上には青空が広がっている。

ロベルトがステンレスタンクから“Dame”をグラスに注いでくれる。

葡萄畑の中にぽつんと目立つ松の木。まだまだ若いがワイナリーの成長と伴にこの松も大木になるに違いない。

日が沈み始めた頃、インペリアからサンタ・マルゲリータ・リグレに向かった。その途中のアウトストラーダはほとんどが長いトンネルだ。それだけリグリアの海岸線はリアス式に入り組んでいる。

ヴィサモリスと訪ねたあと、リグリアの代表的な観光地のひとつサンタ・マルゲリータ・リグレで朝を迎えた。
■ヴェローナのワイン博、ヴィニタリーで再会
ロベルトとロッサーナの二人にはリグリアの旅の数日後、ヴェローナで毎年開催されるイタリア最大のワイン博覧会ヴィニタリー(VinItaly)で再会した。日本の輸入元であるアビコの社長夫妻と一緒に夕食に招かれ、再会と美味しい夕食を楽しんだ。ワイナリーでは撮影するのを忘れてしまったオリーブオイルのボトルをその時に撮影できたのだが、残念ながらこのオイルは他の高級オイルに比べても3割ばかり高値なのでまだ日本には輸入されていない。しかし、ユーロもだいぶ下がってきたから今年の分から少量でも輸入されると期待したい。

ヴェローナのヴィニタリー会場、リグリア・ブースで再会したロッサーナとロベルト、そして友人のエノロゴ(醸造技師)。

これがVisAmorisのオリーブ・オイル(250ml瓶)。タジャスカ種は最も繊細でエレガントな味わいと言われるオリーブだが、ヴィサモリスのオイルはまさに果実のような柔らかで優しい甘さを感じるオイルだ。

ヴェローナのレストランで再会したロベルトとロッサーナ夫妻。





































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